固有名詞を使った小説
また日が開いた。
あねもねのイベントに参加してキャーキャー言っていたら、異動が決まり、前の部署での仕事片付けに追われ、それから生まれて初めての生岡村ちゃん、岡村靖幸ライブツアー2013 「むこうみずでいじらしくて」に参加したりどたばたとしていました。
今の仕事のモチベーションは岡村靖幸にしかないというくらいなので、噂の岡村靖幸の対談が巻末に!という小説を、買って読んでみました。
カバーに「『あなたの父親は岡村靖幸よ』と聞いて育った娘」の話があるよと書いてあったのであーだから岡村ちゃん対談したのね…と思って読み進めたところ。
……これ、別に岡村ちゃんじゃなくていいよね。
【以下ネタバレします】
主人公は中3で、母親からずっと「あなたのお父さんは岡村靖幸なのよ」と言われてそうなのかーとなんとなく信じちゃってる女の子。
友達に「お父さん誰ー?」とか聞かれてもなんとなく恥ずかしくて言えない。
そんな母親と二人暮し、あるとき母方のおばさんが(母の妹だか姉だか)赤ちゃんを見せに実家に来るというので渋々実家に行く母親と主人公。
ずーっと、ぶすっとしている母親に対し、祖母は小言を言うのみ。反対に主人公にはとてもやさしい。
ぼーっとしていたところ、祖母とおば達が自分の父親について(というか母の性格について)グチってるのを聞いてしまう。
なんと、自分の父親は岡村靖幸じゃなかった!母が学生の時知り合った年下の男の子で今は喫茶店をやってるとかやってないとか!
まじかー、と思っていたら聞いていたのか聞いてないのか分からないけど母親がヒョイっと出てきて、家に戻る。
こういう話。
……中3だったら普通もうよっぽどじゃなければ自分の父親は岡村靖幸なんかじゃない、って疑わないか?(※この主人公は岡村ちゃんについて色々ネットで調べていることになっています)
どこまで無邪気なのかと。
大体、ここまで信じ込ませるには母親も相当おかしくならないといけない。
しかしそこまで異常性を悟らせる描写はない。
そして、特に歌詞や曲に関連があるわけでもない。(好きな歌として「だいすき」「真夜中のサイクリング」はタイトルだけ出てきます)
……設定が不自然、かつ岡村靖幸である必然性が全く感じられず、本好きとしても岡村靖幸好きとしても不本意な感じに…
多分この「岡村靖幸」を「大槻ケンヂ」に変えても話に破綻は生じない。架空のアイドルAでもいい。
差し替え可能な固有名詞をわざわざ出す理由が、本当によくわからなかった。
現実にいるかどうかわからない父親と母子ものだったら「神様のボート」があるし。
学生群像劇なら「桐島、部活やめるってよ 」「少女は卒業しない」の朝井リョウがいるし。
作者の歌のファンだっただけに余計悲しくなりました。
巻末の岡村ちゃんとの対談は、岡村靖幸が学生時代に何を考えてたか知ることができるのでそれだけは読む価値があるかなと思いました。
主人公の年齢を小学生くらいにするか、母親がなぜ父親を岡村靖幸だと言って、それを娘につらぬきとおしているのか、そっちが読みたかったかもしれない。
もう、それか「私岡村ちゃん大好きだから歌詞の世界から想像する物語書いちゃったぞー」でもいい。実際、唐突に「僕」(≒岡村ちゃん)の心情が先に出てきて、シチュエーションよく分かんないよ?!という歌もあるから結構その「歌われていない」部分のストーリーだって想像するとかなり面白い。
ビスケットLOVEの彼女の気持ちになってみるとか。
カルアミルクで電話してる彼女とか。
あとはいじわるのユカは一体何を言ったのかしらね?とか。
作家も岡村靖幸も本も大好きなためにかなり残念な1冊に…
その代わり「突き抜けてるならここまで突き抜けろ」と思い窪美澄さんの「ふがいない僕は空を見た」を読んだらかなり突き抜けていて面白かったです。そう、ここまでないと説得力もカタルシスもない。